二章・忘却



漆黒の闇が、限りなく広がる。


1人の少女が寂しげな瞳をこちらになげかけている。


まるで助けを求めるような表情でこちらに何事かを訴えていたが、その声を聞く事はできなかった。



「君は?・・・いや、俺は君を知っている!君の名前は・・・」





― イライザ





電光のように意識によぎるその名が記憶の一部を蘇らせる。


「そうか!俺の名はカリスマ、そして君はイライザ!・・・俺は君を・・・」


無意識のうちに伸ばした手がイライザへ触れようとする正に瞬間、不気味な閃光がイライザを包み込み、彼女の姿を掻き消した。










次の瞬間、そこに在ったのは血のように赤い色をした巨大な蠍だった。


巨大な蠍は序々に収束し、やがて1人の男の姿をかたどる。


死人のように青白い肌に、冷酷そのものの冷たい瞳が異様に輝いていた。





― 闇の王





思わずそう彷彿とさせる威圧感がある。


禍々しい赤いオーラが、存在そのものに邪悪さを感じさせる。


その男の憎悪を込めた視線が、カリスマを貫く。


男は静かに掌をカリスマに向けると、何事かを呟いた。


その瞬間、背中に激痛が走りカリスマはその場に突っ伏した。


強烈に襲ってくる痛みの中、意識が遠のいてくる。



<・・・カリスマよ、この私を傷つけた男よ>


男は憎々そうに言葉を吐き出した。



<貴様には地獄の苦しみを与えやる>


憤怒の表情はやがて狂気へと変貌していく。



<悶え、苦しむがよかろう。そして、絶望の涙が枯れ果てたとき、闇に捧げてやろう>


<我が神の生贄としてな!我が・名・・アンタレス・・胸・・・刻む・・・よ・・い・・・>


声は次第に遠くなり、そして闇に消えた。




― アン・・タレス?・・・そう・だ・・我が・敵・・・イライ・・ザ・・・・を・・・







忘却編・第1話・・・完